この記事を読めば「入梅」の意味や由来、歴史、そして現代の「梅雨入り」との違いまで、ひとつひとつ理解できます。
カレンダーを見ていると6月11日あたりに「入梅」という文字が書かれているのに気づくことがありますよね。
でも、それが何なのかよくわからないまま通り過ぎてしまっていた方も多いんじゃないかと思います。
実は「入梅」には、江戸時代から続く農業と暦の知恵が詰まっていて知れば知るほど奥が深い言葉なんです。✨
入梅(にゅうばい)の基本的な意味
入梅とは何かまずここを押さえることで、由来や歴史の話がぐっとわかりやすくなります。
読み方と基本的な定義
「入梅」は「にゅうばい」と読むのが一般的ですが「ついり」「つゆいり」と読む場合もあります。意味としては、暦の上で梅雨の季節に入る最初の日のことで、毎年6月11日頃がその目安とされています。
現在の日本では太陽黄経が80度に達した日を入梅と定めています。
太陽黄経というの、地球から見た太陽の軌道上の位置を角度で表したもので、春分の日が0度の起点になります。
年によって1日前後することはありますが、ほぼ毎年6月11日か12日に固定されている、わりと安定した暦日なんですよね。
雑節のひとつとして
入梅は「雑節(ざっせつ)」と呼ばれる暦のカテゴリに属しています。
雑節とは二十四節気や五節句だけでは表しきれない季節の移り変わりを補うために設けられた、日本独自の暦日のことです。節
分、お彼岸、八十八夜、土用なども同じく雑節のひとつです。
要するに、古代中国発祥の二十四節気だけでは日本の気候にぴったり合わなかったので、より日本の実情に即した区切りとして生まれたのが雑節、ということです。
「入梅」の由来と語源
「なぜ梅という字が使われているの?」これ、けっこう気になりますよね。
じつは語源には複数の説が存在していて、どれが正しいか今でも確定していません。
梅の実が熟す頃の雨、という説
一番広く知られているのが梅の実が黄色く熟す時期に重なる雨だから「梅雨(ばいう)」と呼んだという説です。
中国の長江下流域では梅の実が熟す季節に降る雨を「梅雨(ばいう)」と呼んでいたという記録があります。
6月はまさにスーパーや八百屋に梅の実が並ぶ時期ですし、昔の人はその光景を見て「そろそろ梅雨が来るな」と感じ取っていたのかもしれないですよね。
カビ雨が転じたという説
もうひとつの説がこちら。
湿度が高くカビが生えやすいこの時期の雨を「黴雨(ばいう)」と呼んでいたという話です。
「黴(かび)」という字は「ばい」とも読めるので、音が同じ「梅(ばい)」の字に置き換えられたのではないか、という考え方です。
正直、語感の良さという観点から言えば「黴雨」よりも「梅雨」のほうがずっと美しいですよね。そういう感じの、日本人らしい言葉の置き換えが起きたのかもしれません。
「入梅」の入はそのまま「入る」
「入梅」という言葉自体は、梅雨の季節に入ることを意味する漢語的な表現です。
対義語は「出梅(しゅつばい)」で梅雨明けを指しますが、日本ではほとんど使われていません。
「入梅」はよく聞くのに「出梅」は聞かないなと思っていたんですが、それもそのはずで、日本では定着しなかったんですね。
入梅の歴史 江戸時代に生まれた暦の知恵
入梅がいつ、どのようにして暦に登場したのか。その歴史は日本の農業と深く結びついています。
江戸時代に暦へ記載されるように
日本で入梅が暦に正式に載るようになったのは、貞享暦(じょうきょうれき)が作られた1685年(江戸時代)頃からとされています。
当時の定義は「芒種(ぼうしゅ)の後の最初の壬(みずのえ)の日」というものでした。壬というのは陰陽五行説において水の気が強いとされる干支のひとつで、水と縁のある日を梅雨入りの目安に選んだわけです。
なぜそこまで梅雨入りの時期を知る必要があったのか。
それは当時、農作業(とくに田植え)のタイミングを決めるために、梅雨がいつ来るかが非常に重要だったからです。
現代のように気象予報が発達していない時代、暦に「この頃に梅雨が来るよ」という目印を入れることは、農家にとって死活問題に直結する情報だったんです。
天保暦で定義が変わった
長らく「芒種後の最初の壬の日」という十干ベースの計算が使われていましたがこれには10日前後の変動幅があるという問題がありました。
そこで1844年の天保暦から、太陽黄経80度の日という、より精確な天文学的定義に切り替えられました。
さらにその後、1876年(明治9年)からも同様の定義が引き継がれ、現代に至っています。
渋川則休(しぶかわのりやす)という人物が1744〜45年頃、その年の十干(甲乙、丙丁など)によって梅雨の日数まで予測しようと試みていたという記録も残っていて、当時の暦学者たちがいかに真剣に梅雨の予測に取り組んでいたかが伝わってきます。
入梅と梅雨入りの違い
この2つをごちゃ混ぜにしている人、意外と多いんですよね。実はまったく違う概念です。
「暦の上」と「気象上」の違い
| 比較項目 | 入梅 | 梅雨入り |
|---|---|---|
| 定義 | 太陽黄経が80度に達した日(暦上の区切り) | 梅雨前線の北上で実際に天候が変化した日 |
| 日付の変動 | 毎年ほぼ6月11日〜12日で安定 | 地域や年によって1か月前後ずれることもある |
| 発表元 | 暦・カレンダーに記載 | 気象庁が発表 |
| 性質 | 天文学的な計算に基づく固定的な指標 | 実際の天気の変化を観測・予測したもの |
たとえば関東地方の梅雨入りの平年値は6月8日頃なので、暦上の入梅(6月11日頃)よりも少し早いことが多いです。また北海道には気象上の梅雨がないことも知られていますよね。
気象庁による梅雨入り発表は「予想」をもとにしているのでその年の9月に実際の天候を振り返って日付が見直されることもあります。
つまり梅雨入り発表は暫定的な情報なんです。これ、個人的にけっこう驚きました。
入梅の頃の過ごし方と旬のもの
梅雨の時期はじめじめして憂鬱になりがちですがこの季節ならではの楽しみ方もあります。
入梅いわし
この時期の食べ物として有名なのが「入梅いわし」です。
梅雨の時期(6〜7月)に水揚げされる真いわしのことで、一年のなかで最も脂がのっておいしいとされています。千葉県銚子が主要な水揚げ港として知られていて刺身や塩焼き、煮付けなどで楽しめます。
旬のものってやっぱり格別においしいですよね。
梅しごと
入梅の頃はちょうど梅の実の収穫が始まる時期でもあります。
青梅は梅ジュースや梅酒、梅シロップに、黄色く色づいた完熟梅は梅干しや梅ジャムに向いています。
梅干しには疲労回復の効果があり、夏バテ対策にもなるので、この時期に仕込んでおくのはかなり理にかなっているんですよね。
じめじめした季節に梅の香りと向き合う「梅しごと」、想像するだけでちょっとほっとする感じがあります。
時候の挨拶として
入梅という言葉は現代でも手紙やメールの時候の挨拶として使われています。
「入梅の候」という表現は宛先の地域で梅雨入りが発表されていることを前提に使う表現なので、相手の地域の状況を確認してから使うのが丁寧ですよね。
まとめ
- 入梅(にゅうばい)は6月11日頃、太陽黄経が80度に達した日に設定された雑節
- 江戸時代(1685年頃)に農業の目安として暦に登場し、1844年の天保暦で現在の天文学的定義に変更
- 「梅雨」の語源は「梅の実が熟す頃の雨」説と「黴雨(ばいう)から転じた」説の大きく2つがある
- 「入梅」はあくまで暦上の区切りであり、気象庁が発表する「梅雨入り」とは別物
- 入梅の頃は入梅いわし・梅しごとなどこの季節ならではの楽しみがある
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