毎年6月30日は「酒酵母の日」です。
この記事を読めば酒酵母の日がなぜ制定されたのか、その由来や歴史、酵母の役割まで、まるごとわかります。
日本酒好きなら「酵母」という言葉を聞いたことがあると思うんですが、実はこの小さな微生物が、あの豊かな風味や香りを生み出している立役者なんです。
酒酵母の日はそんな縁の下の力持ちへの感謝と、次の酒造りへの祈りが込められた意外と深い記念日。ちょっと気になりませんか?
酒酵母の日とは
酒酵母の日は毎年6月30日に設けられている記念日です。
岐阜県飛騨市古川町にある老舗の造り酒屋、有限会社渡辺酒造店が制定したもので、2019年(令和元年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録されました。
制定の目的は清酒業界全体で美味しいお酒造りに欠かせない酒酵母に感謝し、来期も良い酒ができることを願う日とすること。
なんかとても静かで、でも深い思いやりのある記念日だなと感じます。
日付はなぜ6月30日なの?
6月30日が選ばれた理由、気になりますよね。これは酒造年度(BY=Brewery Year)の最終日が6月30日にあたるためです。
日本酒の酒造年度は毎年7月1日から翌年6月30日まで。つまり6月30日はその年の酒造りが終わりを迎える「締めくくりの日」なんです。
一年間、発酵を支え続けた酵母への感謝をこの日に込めたというわけで、日付の選び方からして、蔵人の気持ちが伝わってくる気がします。
渡辺酒造店のブログには
「日本酒づくりの発酵に欠かせない酒酵母。その働きに感謝し、また来年もおいしいお酒ができるようにという願いを込めて酵母を供養する日としました」
とも書かれていて供養、という言葉が印象的でした。
制定した渡辺酒造店とは
酒酵母の日を制定した渡辺酒造店は岐阜県飛騨市古川町壱之町7-7に本社を構える蔵元です。創業は明治3年(1870年)で、150年以上の歴史をもちます。
蔵元の歴史と「蓬莱」
渡辺家自体の歴史はさらに古く、江戸時代中期の享保17年(1732年)に初代が飛騨古川の地で家業を興したことに始まります。
酒造りをスタートさせたのは5代目の久右衛門で、旅先で口にした酒の旨さが忘れられず、自ら飛騨の地に酒蔵を構えたというエピソードが残っています。
完成した酒は「えもいわれぬ、珠玉のしずく」と言われ、その名を謡曲「鶴亀」の一節から取って「蓬莱」と名付けました。
苦境からの復活と世界1位
個人的に一番すごいと思ったのがこの蔵の復活劇です。
2002年の酒類販売規制緩和により既存取引先の販売額が激減し、年商4億円が3割にまで落ち込んだ苦しい時期がありました。
しかしその後、品質への徹底したこだわりと世界を見据えた戦略で立て直し、世界酒蔵ランキング2020で1位を獲得、売上を4倍に伸ばすまでになったんです。
「日本で一番笑顔あふれる蔵」というモットーを掲げる蔵元だからこそ、酵母への感謝という記念日制定にも納得感があります。
酒酵母とは何か
発酵の立役者
酒酵母とは日本酒の発酵に欠かせない微生物のことです。レモンのような形をした単細胞生物で、顕微鏡でないと見ることができません。
酵母は糖分を吸収して細胞分裂を繰り返し、糖をアルコールと炭酸ガスに分解する「アルコール発酵」を起こします。これが日本酒になるわけです。
さらに、吟醸香と呼ばれる華やかな香りや、酸味といった清酒らしい風味も酵母がつくりだしています。
ただ、ちょっと切ない事実もあって。
酵母は酒造りの過程で、自らが生成するアルコールと炭酸ガスによって最終的に死滅し、さらに「火入れ」という加熱殺菌によってその役目を終えるんです。
酒酵母の日を「供養の日」とする理由がなんとなく分かる気がしませんか。
清酒酵母の発見と歴史
日本酒の発酵の仕組みが科学的に解明されたのは思いのほか最近のことです。
17世紀にオランダのレーウェンフックが微生物の存在を発見し、19世紀になってようやく酵母が精密に観察されるようになりました。
フランスのルイ・パスツールが発酵は微生物によって起こることを実証したのが1879年のことです。
日本では明治28年(1895年)に矢部規矩治(やべきくじ)博士によって初めて清酒酵母「サッカロマイセス・サケ」が分離・報告されました。
そして明治37年(1904年)に国立醸造試験所(現・酒類総合研究所)が設立され、酵母研究が本格化。
翌1906年には日本醸造協会から「きょうかい酵母」の頒布が始まります。
きょうかい酵母の系譜
きょうかい酵母とは日本醸造協会が品質の高い酵母を全国の酒蔵に供給するシステムでこれにより酒質の安定と再現が可能になりました。
最初の「1号酵母」は、明治39年に兵庫県の名門「櫻正宗」の酒母から高橋氏によって分離されたものです。
現在では以下のような酵母が頒布されていてそれぞれ個性が全然違います。
- 6号酵母(秋田・新政):いわゆる「秋田流低温長期醗酵」向け、穏やかな風味
- 7号酵母(長野・真澄):広く使われる汎用タイプ、バランスがよい
- 9号酵母:華やかな吟醸香で有名、現代の吟醸酒ブームを支えた主役的存在
- 10号酵母:高酸性、酸味のある日本酒向き
- 14号酵母:りんごのような爽やかな香りが特徴
1980年代以降の吟醸酒ブームにより、さらに香り高い酵母が各地で開発されるようになり、各都道府県の工業技術センターや大手メーカーが独自の酵母開発を競い合う時代になりました。

まとめ
- 酒酵母の日は毎年6月30日で酒造年度の最終日に由来する
- 岐阜県飛騨市の渡辺酒造店が制定し、2019年(令和元年)に日本記念日協会が認定
- 目的は、美味しい酒造りを支えた酵母への感謝と来期の豊醸祈願
- 日本で清酒酵母が初めて分離・報告されたのは明治28年(1895年)
- 記念日を制定した渡辺酒造店は創業明治3年(1870年)の老舗で、世界酒蔵ランキング2020にて1位を獲得した実績をもつ
- 毎年6月30日前後には渡辺酒造店で「酵母まつり」が開催されていて、入場無料で参加できる
6月30日が近づいたら、ぜひ手元の日本酒を一杯傾けながら、一年間黙々と働いた酵母たちへ、ちょっとだけ思いを馳せてみてください🍶
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